「おいしい信州ふーど」レポート
「ていざなす」は米ナス系の大型のナス。長さは約30センチで、重さは450~650グラムほど、大きいものは1キロになるものもあります。1887(昭和20)年ごろ、神原村(現在の天龍村神原地区)に住んでいた田井沢久吉さんが作り始め、「たいざわなす」と呼ばれていたものが、のちに「ていざなす」になったと言われています。水分を多く含んで柔らかく、甘みが強いのが特徴。アクが少なく、えぐみがないので、地元の保育園で出すと、普通のナスは苦手な子どもでも「おいしい!」と食べてくれるそう。現在は、2007(平成19)年に設立された「天龍村ていざなす生産者組合」が栽培技術を共有しながら生産量の向上に努めています。
組合の理事・板倉貴樹さんに畑を案内してもらいました。1本の木に15本ほど実がなり、花が咲いてから収穫するまでには約20日かかります。訪れた9月初旬には、薄紫色の花や、通常のナスほどのサイズのもの、そして大きく成長したものも見られました。農業用水は天竜川の支流、和知野川から引いています。「ここで育てて種を取り、それを植えてまた育てる。ほかの地域で植えても、ここのようなツヤや柔らかさは出ないみたいですね」と板倉さん。収穫は7月初めから11月半ば頃まで。毎年足を運んでくれる人や、視察に訪れる東京の料理店のシェフもいるそうです。
種苗業を営む板倉さんに、組合が苗作りを依頼。それをきっかけに、板倉さん自身も育て始めましたが、最初は一晩でシカに葉を食べられてしまうなど、思わぬトラブルにも見舞われました。不ぞろいになったり、風で葉が実にこすれてしまって傷が付いたりと、普通のナスに比べると苦労は多いそうですが、「やっぱり大きさに魅了されますね。ていざなすを手がけた人でないと分からない面白さがあります」と話します。現在、組合のメンバーは18人。若い人が「ていざなすを作りたい」と入ってくることもあると言います。「伝統野菜は、ある程度の生産体制がないと途絶えてしまうリスクがあります。次の世代へ継承できるよう、早めに対応していきたいです」と前を見つめます。
⇒ 信州の伝統野菜「ていざなす」(「おいしい信州ふーど」図鑑)