「おいしい信州ふーど」レポート
北安曇郡池田町会染、内鎌(ないがま)地区で作られている「内鎌かんぴょう」。そのかんぴょうの元になる「内鎌ゆうがお」は、例年、7月中旬から8月末まで収穫します。畑を案内してくれたのは、「池田町内鎌のかんぴょうを守る会」会長の太田洋介さん。5月半ばごろに苗を植え、葉が10枚ほど出てきたら、枝やつるの先端を摘み取ります。そうすることで、わき芽が出てきて、そこに花が咲き、実になります。多いときは一つの苗から40本のゆうがおが採れることもあるそう。「夏は、一晩でグッと成長します。お盆を過ぎて朝晩の気温が下がると、もう大きくは育たなくなりますね」と太田さん。
かんぴょう作りは、天気がいい日の朝6時から始まります。まずは内鎌ゆうがおを収穫し、半日以上天日干しにします。干すことで、実と皮が柔らかくなるとのこと。そして夕方4時ごろからは手びきの作業。輪切りにした内鎌ゆうがおを、ひき台に乗せて、包丁を使って薄くひいていきます。包丁は、刃が細長く長方形になっている刺身包丁。「タコ引き包丁」とも呼ばれるそうですが、ここでは「かんぴょう包丁」です。
薄さは1.5~2ミリくらいという、まさに職人技。ひいたものは、干し場にしているハウスの中で1日干します。翌日の夕方、パリパリに乾いているかんぴょうに冷たい風が触れると、少しだけ湿って、折りたためるように。袋詰めをして、完成です。
内鎌ゆうがおはこの地域で、江戸時代から作られていたと言われています。もともと野菜がたくさん採れる地域でしたが、戦後、専業農家が減る中で、作り手も徐々に少なくなってきました。「昔は各家庭で、手びきでかんぴょうを作っていましたから。親がどうやっているのかを皆、見ていました」と太田さん。このままでは作り手がいなくなってしまうと、2011(平成23)年、守る会を立ち上げました。当初は、誰も手びきができず、地域の“名人”に習ったとのこと。それでも手びきができるようになるためには3年かかったそうです。
専用のひき台は、家にあったものや、昔から使われていたものを参考に、地元の大工さんが作ってくれたものを使っています。機械化を試みたこともあったそうですが、実や皮は一つ一つ硬さも厚さも異なるため、思うようにひくことは難しく、断念。「自然が相手なので、なかなか楽はできませんね。手びきの技にこだわって、しっかり継承していかないといけません」と太田さん。時期になると、周辺地域の“昔ながらのファン”から注文が入ります。「だいたい自宅用で、みそ汁や煮物にして食べます。以前、都市の和食店からも注文がありましたが、どんな料理になっているのか、興味がありますね」。もともとは野菜がない冬に食べるために作っていた保存食。これからも熟練の技が支え、伝えていきます。
池田町内鎌のかんぴょうを守る会
TEL:0261-62-4607
住所:北安曇郡池田町会染10400
⇒ 信州の伝統野菜「内鎌ゆうがお」(「おいしい信州ふーど」図鑑)